元旦の朝、風呂に入ったとき、ドラム式洗濯機のフィルター部分のフタの隙間から、黒いものがはみ出しているのが目に入った。

恐る恐る近づいてみたら、案の定ホコリだった。隙間からはみ出して、少し固くなっているようにも見えた。フィルターからあふれるなんてことが、ありえるのか。信じられなかった。

怖くて、すぐにはフタを開けられなかった。

母は、見えていなかった

開ける前に母を呼んだ。「ここ汚れてるけど、気づいてる?」と聞いたら、「あら、ほんとだ」と。

見えていない。気づいていない。

びっくりしたけど、しょうがない。もう目が見えづらくなっているんだから。

フィルター部分のフタを開けてみると、ホコリがたまっているというより、こびりついていた。これは想像以上だ。

「たまに掃除してるんだけどね」と母は言った。母の「たまに」は、1年に1回か、半年に1回か。聞かないでおいた。

母よ、ここは毎回掃除する場所なんだ。

掃除の方法を一から教えた。全部、初めてやることだったらしい。今までどうやってこの部分を掃除していたのか。いや、掃除をしていないんだ。問い詰めてしまいそうだったから、細かく聞くのをやめた。

15年前、買ってあげただけだった

この洗濯機は15年前、よかれと思って買ってあげたドラム式洗濯機だ。注文しただけで、あとは何のフォローもしなかった。使い方なんて、あたりまえにわかるだろうと。

でも実際は、全くそうではなかった。

乾燥フィルター、洗剤を入れるところ、排水フィルター、ゴムパッキン。順番に見ていったが、全部ひどかった。こんなドラム式で毎日洗濯していたのか。

極め付けは、母のこの一言だった。「最近はもうずっと、乾燥機は使ってないよ。」

外干しと乾燥機を分別しているのかと思ったが、違った。全く使っていないのだ。ドラム式は洗濯後に乾燥まで行うのが推奨で、使用しない場合は槽乾燥機能を使うはずだが、この流れだと槽乾燥をやっているわけがない。

洗剤ケースを開ける

洗剤を入れるケース部分を、おそるおそる開けてみた。もちろん掃除などしたことがない場所だ。

想像の通り、汚れとカビだらけだった。

引っぱり出して、洗った。中もとりあえず洗った。携帯のライトを使って、細かいところを母に見せた。老眼鏡を持ってきてもらい、現実を見てもらった。見たくはないだろうが、見るしかない。知ってもらうしかない。

掃除メンテナンスもしない。やるのがあたりまえだと思っていない。そもそも知らない。基本的に洗えればいいと思っている。乾燥機は使わない。説明書は読まない。

ものすごい絶望感。

母の原因不明の体のポツポツは、この洗濯機が原因ではないかと頭の中がぐるぐるした。

15年間、一度もやったことがなかった

母に聞いた。「洗濯槽クリーナー、やったことある?」

2011年に購入して以降、一度もやったことがないと。

驚愕して言葉を失った。でも、教えてあげなかった私が悪いのかと思うしかなかった。説明書を捨てられない族のはずなのに、読むことはない。機械には「メンテナンス」が必要だという認識そのものが欠落している。父は割と機械好きなはずだが、家事に関わる機械には全くの他人事だった。

毎日、洗濯しなくてはならない

母と話していて、あることに気づいた。

「洗濯は毎日やらなくてはならない」という固定観念がある。

家族4人で暮らしていた頃はそうだったかもしれない。ただ今は2人だ。うまく分別すれば、週3日でもいけそうなものだ。でも洗濯は毎日のルーティンに組み込まれていて、どんなに洗濯物が少なくても必ず行われる。歯磨きと一緒で、思考停止で行う行動になっている。

「今日は洗濯しなくてもいいかな」という発想には全くならないらしい。「毎日やるものでしょ?」と母は言った。

乾燥機を使うのは「もったいない」とも言った。電気代がもったいないという意味ではない。乾燥機を使うこと自体がもったいない。乾燥機能に遠慮しているのだ。

毎日洗濯しなくていい。乾燥機も遠慮しないで使っていい。

そう話したら、母は「目からうろこ」だと言った。そういう考えがなかったと。

何十年も続けてきた毎日の行動は、なかなか変えられない。無理に変えろとは思わない。でも便利なものは使ってほしいし、洗濯しない日があれば、時間が有効に使えるよと伝えた。

もう少し早く教えてあげられればよかった。母の洗濯の労力は、半分くらいにはなっていたはずだ。

15年分の洗濯槽

母と一緒に、15年分の掃除をした。

洗濯槽クリーナーを父に買いに行ってもらった。近くの薬局はお正月休みで、セブンイレブンで売っているものを買うしかなかった。

使い方も、入れ方も、一緒にやった。母はノートにメモしていた。もちろん全部初めてのこと。水をためて液を入れようと扉を開けたところ、見たことのない量のカスが浮いていた。

掃除したカスが流れ落ちてきたのだろう。2人で悲鳴をあげた。

この大量の沈殿物とともに、毎日洗濯していたのか。衣類にも付着していただろうし、臭いもあったかもしれない。母の原因不明の赤いポツポツ、その原因のひとつに洗濯機があるのではないかと、また頭がぐるぐるした。

15年間、一度も洗われなかった洗濯槽。遅すぎた気もする。でも、やらないよりはいい。

お鶴